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    「まだなかなかでせう。永いこつてすよ」

    「やっぱりチブスで?」

    「捕虜が内地へ送られるさうだよ」

    「おい、ビールをくれ」と、しやがれた低い声で云ふと、土間の安テーブルの前に腰を下した。

    徳次は慌てた。

    「へゝえ、わしらは用意がえゝですからね、あんな蜜柑箱みたいなもんはすぐこはれるにきまつてるから、家を出るときこゝにつけて来たんでさあ」

    「え?いや、居ましたよ、居ましたけど、別に――」

    「おれはまだ一本立ちの医者といふわけにはいかない」

    感心したやうに呟くと、房一はくるりと向ふむきになつて歩き出した。

    「だつて、喜作さんはこの土地にはいないでせう」

    わたしが若いときに箱根に滞在していると、両隣ともに東京の下町の家族づれで、ほとんど毎日のように色々の物をくれるので、頗すこぶる有難迷惑に感じたことがある。交際好きの人になると、自分の両隣ばかりでなく、他の座敷の客といつの間にか懇意になって、そことも交際しているのがある。温泉場で懇意になったのが縁となって、帰京の後にも交際をつづけ、果はては縁組みをして親類になったなどというのもある。

    「いつこちらへお帰りでしたか」

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