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    徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。

    やうやく三十に手が届いたばかりだが、苦労したのとその無骨な外貌のために年齢よりは四つ五つ老けて見える。がつしりと人並外れて幅広い肩はむくれ上るやうに肉が盛り上つて、何だか猪首のやうな印象を与へた。

    「うん?」

    今泉にはやつと徳次の考へていることが判つたので、熱心に説明した。

    房一はきつぱり云つた。男は、これは話が判る、といふやうな顔をした。それに押つかぶせるやうに、

    と、房一はほつとした面持になつて云つた。

    「うん」

    もう日盛りの時刻はとつくに過ぎていたとは云へ、半ば傾いてそのためによけい濃くなつた日ざしは河原町の上に、それに沿つてゆるく曲つた川、周囲の山地の上に、こゝぞといふ風に照りつけていた。

    聞き慣れない太味のある声が立つた。直造は立ち上りかけた膝を又ついて、ふり返つた。彼は席のまん中近くへ進み出ていたので、声の起つたずつと下席の方はよほど努力して身体を捻ぢ向けねばならなかつた。長時間の主人役で疲労して、いくらかうすい曇りのできた直造の眼は、やうやく声の主である高間房一の赤黒い、円つこい、だが明かに普通でない硬は張つた顔と、その上にきらめく強い眼の、色とを見た。瞬間、直造の端正さは崩れ、一種の狼狽と不安が走つた。

    だが、今日は徳次の方でめづらしく今泉の近づいて来るのを待つていた。といふのは、今泉の方でも遠くから徳次を見つけるや否や、声にこそ出さなかつたが、何か話すことがありさうな様子で、急ぎ足になつたからである。

    と、小谷は目を丸くした。欲しさうだつた。すると、逸早く、

    ごろごろする石の上を下駄ばきでは歩きにくかつた。房一は川から上つたまゝの濡草履をはいているので速い。盛子は空からになつた追鮎箱を手にして後からついて行つた。

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